東京地方裁判所 昭和26年(行)28号 判決
原告 株式会社松早石油店
被告 国
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「昭和二十三年三月三十一日近海油槽船株式会社の特別管理人塚田鋠治郎外三名がした企業再建整備計画認可申請に対し、昭和二十三年八月三十一日運輸大臣並びに大蔵大臣がした認可処分は、無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、また被告の主張に対して、次のとおり述べた。
(一) 原告会社はかつて宝山丸(一三一屯)及び第二松丸(一二九屯)なる油槽船二隻を所有していたが、今次世界大戦中戦時企業態勢が強化されるに従い、近海油槽船株式会社に企業統合され、昭和十九年五月中右二隻の油槽船を同会社に現物出資した。同会社は会社経理応急措置法によつて昭和二十一年八月中に特別経理株式会社となり、社長塚田鋠治郎外三名がその特別管理人となつた。そして右特別管理人等は、企業再建整備法にもとづいて、右近海油槽船株式会社(以下第一会社という)の企業再建整備計画を立案作成して、昭和二十三年三月三十一日主務大臣たる運輸、大蔵両大臣にその認可を申請し、これに対して同年八月三十一日右両大臣の認可があり、かくて前記二隻の油槽船は第一会社の他の持船とともに第二会社たる平和汽船株式会社に引きつがれるに至つた。
(二) ところで企業再建整理法(以下法という)一四条によれば、特別経理株式会社の特別管理人が企業再建整備計画の認可を申請したときは、遅滞なく同法六条一項一〇号に掲げる事項を公告しなければならず、利害関係人がその整備計画に定める事項に異議があるときは、右公告の日から一ケ月以内に主務大臣に異議の申出をすることができる、とされている。そして主務大臣が申請に対して認可又は不認可の処分をするのは、右の異議申出期間の経過後であることを要する(法一五条一項)。しかるに前記第一会社の企業再建整備計画については、未だ適法な公告がなく、従つてこれに対する異議申出期間も経過していないにかかわらず、主務大臣たる運輸、大蔵両大臣はこれに対して認可を与えたのである。本件認可処分には重大な瑕疵ありといわなければならない。以下その事由を詳しく述べる。
(三) 企業再建整備計画の立案及びその認可申請の結果は、特別経理株式会社の株主、債権者等の利害関係人に、直接重大な影響を及ぼすことである。そこで法一四条一項は、特別管理人が整備計画の認可申請をしたときは、遅滞なく整備計画の主要内容たる法六条一項一〇号に掲げる事項を公告して、すべての利害関係人に知らせ、これに異議申出の機会を与えることにし、利害関係人が法定期間内に異議の申出をしなかつたときは、その後整備計画に対して異議を述べる権利を失うという効果を与えたのである。
かように重大な意味をもつている公告の方法について、本法は何の規定もおいていない。かような場合には、右公告の重要性にかんがみ、会社に関する一般法たる商法の規定により、当該会社の定款に定める方法で公告すべきが当然である。
本法施行規則(以下規則という)九条に、特別管理人が整備計画の認可を申請したときは、法一四条一項の規定により規則三条一項に記載した事項を店頭公告の方法によつて公告すべき旨定めてあるが、同条にいう店頭公告の方法による公告なるものは、法一四条一項で要求されている公告ではない。本来店頭公告なるものは極めて不完全な公告方法であつて、利害関係人にもれなく公告事項を知らせるに適しないものであるから、なるべく用いないのが適当である。企業再建整備計画のような利害関係人に重大な影響を及ぼすものについては、法に特別の規定がない以上許すべきものではない。若し店頭公告のみで足るものとすれば、その店頭に出入した利害関係人以外の者がこれを知ることは、殆んど期待できないことであるから、すべての利害関係人に対し異議を述べる機会を与えて、その利益を保護しようとした法の目的が達せられないことは、明らかである。本法がかような不当な結果を是認しているとは、とうてい考えられない。さればこそ、後に述べるように、法一四条一項は、本法の他の場合と異り、その公告方法を命令の定めるところに委任していないのである。
かようにみると、右規則九条は、法一四条一項の規定により法六条一項一〇号の重要事項を会社の定款所定の方法で公告するとともに、なお規則三条一項に記載された広汎な事項を、更に店頭公告によつて広く一般に知らせるべきことを定めたものにすぎない、とみるのが相当である。法一四条一項による公告と規則九条による公告とはその目的性質がちがうのである。このことは、両者の公告事項の内容を比べてみてもすぐわかることである。即ち、法一四条一項によつて公告すべき法六条一項一〇号の事項中には、規則九条によつて公告すべき規則三条一項に記載されていないものがあり、両者は公告事項を異にしている。例えば、法六条一項一〇号中の「法第三十四条の四第一項の規定により留保する積立金の額」に相当するものは、規則三条一項各号中に掲げられていない。若し被告のいうように、規則九条の店頭公告が法一四条一項の公告方法であるとすると、法の命ずる重要な公告事項の中に、店頭広告すらもされないものが残る結果となり、許すべからざることである。これを立法上の誤りであるということは、いいのがれにすぎない。
被告の主張に従えば、規則九条は法五五条にもとづく委任命令の規定ということになろう。しかし法五五条が命令の定めるところに委任した「登記その他企業の再建整備に関し必要な事項」の中には、「公告に関する事項」又は少くとも「法所定の公告方法の原則を変更するような事項」は含まれていない。本法は個々の場合に、公告方法を重視しない特定の事項については、特に「命令の定めるところにより……の事項を公告し」と法自体に委任の主旨を明らかにして、その公告方法に関する定める命令に委任している。例えば、整備計画の認可があつた場合に、法一八条は「特別管理人は命令の定めるところにより遅滞なく法六条一項一〇号に掲げる事項を公告し」と定めている。そのわけは、整備計画の認可があつた後は、株主その他の利害関係人がこれに対して異議を述べることは、もはや許されないのであるから、その保護を特に重くみる必要がなく、命令を以て簡易な公告方法を定めても支障がないからである。かような主旨の規定は本法に数多くおかれている。これに反し、法一四条一項は、その公告方法を定めることを命令に委任していない。それは、整備計画の認可申請の場合には、株主その他の利害関係人がこれに対して異議の申出をすることができるのであるから、厳格な公告方法をとつてすべての利害関係人に知らせ、その利益を保護しようという主旨にほかならない。ひつきよう、法五五条が「この法律に定めるものの外」として命令に委任しているのは、法自体に規定がなく、法がその処理を一般法たる商法等の原則によるべきものとしていない、利害関係人に対する影響の比較的少い事項に関するものをいうのであつて、法一四条一項の公告方法のような重要な事項は含んでいないというべきである。この結論は、委任命令の本質並びにその一般的実例に照らしてみても明らかなことである。若し法一四条一項の公告方法のような重要なものに関する事項を、命令を以て自由に定め得ることとすれば、委任命令の本旨を逸脱することになり、ひいては、行政庁が立法権の範囲に属すべきことがらを自ら恣意的に行い得る結果となつて、違憲のそしりを免れないであろう。
また被告のいうように、本法における各種の公告を、特別経理株式会社のなすべき公告と特別管理人のなすべき公告とに区別し、後者については会社の定款所定の方法によることを要しないとすることは適当でない。特別管理人といえども、会社の取締役、監査役と同様会社の重要な機関であつて、会社を離れては存在意義がないものであり、その職務行為はすべて会社のためにするものであるから、法文上公告をなすべき主体が区別されているからといつて、これをもつて公告の方法を異にすべき根拠とすることはできない。
以上のとおり、いずれの点からみても、規則九条の店頭公告は、法一四条一項の公告方法を定めたものということはできず、結局法一四条一項の公告をすべき方法については、本法及びその附属法令に特別の定めがない、とみるべきものである。してみると、その公告方法については、会社に関する一般法たる商法の定めるところに従い、会社の定款所定の方法によるべきが当然であるといわなければならない。
ところで前記第一会社の定款によれば、同会社の公告は官報に掲載してすべき旨が定められている。しかるに本件特別管理人は、本件整備計画の認可を申請したにかかわらず、官報に法一四条一項の命ずる公告をしていない。従つて、本件整備計画の認可申請については、適法な公告がなかつたことになり、利害関係人のこれに対する異議申出期間も未だ満了していないのである。この事実を看過し、適法な公告ありとしてなされた本件認可処分には、重大且つ明白な瑕疵があり無効であるといわなければならない。
(四) 仮りに、法一四条一項の公告は、規則九条の定める店頭公告の方法によつてなすべきものとしても、本件整備計画の認可申請については、適法な店頭公告がされていない。されば適法な店頭公告あることを前提としてなされた本件認可処分の無効たることにかわりはない。
(五) 原告会社は本件第一会社の株主であつて、本件整備計画が立案された当時、自己本来の営業のために、さきに現物出資した前記油槽船二隻を返還してもらうことを強く望んでいた。原告会社は本件整備計画について重大な利害関係をもつている。よつて右株主たる地位において、本件認可処分の無効なることの確定を求める。
かように述べた。
被告代理人は主文と同旨の判決を求め、次のとおり答弁した。
原告主張の(一)の事実及び本件第一会社の特別管理人が法六条一項一〇号の事項を官報に公告していないこと、第一会社の定款に同会社の公告は官報に掲載してすると定められていること、原告会社が第一会社の株主であつたことは認めるが、本件整備計画の認可申請について法一四条一項の定める適法な公告がなく、そのため本件認可処分が無効であるという主張は争う。
規則九条は、法一四条一項に規定する公告の公告事項及び公告方法の細則を定めたものであつて、法一四条一項の命ずる公告は規則九条に従つてすべきものであり、そのうえ更に定款に定められた方法に従つて公告しなければならないということはない。
株式会社の公告は、原則として、官報又は時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲げてしなければならないことは、商法の明定するところである。そして本法は商法の特別規定であるから、本法の規定によつて特別経理株式会社が公告をすることを要する場合には、同法に特別の規定がない限り、商法の定める公告方法によつて公告しなければならないことは、いうまでもない。これに反し、本法に特別の定めがあるか、その委任に基く命令に特別の定めがある場合には、その規定によつて公告すれば足り、更に商法の規定による公告をする必要はない。一方株式会社の公告と異り、本法に定める特別管理人のする公告方法については、商法その他の法令に一般的規定がない。そこで本法及びその附属法令に特別の規定が設けられたのであつて、特別管理人はその規定に従つて公告することを要し、株式会社の公告方法による必要はない。特別経理株式会社の特別管理人は、取締役等のような株式会社の機関又は会社債権者の代理人ではなく、会社経理応急措置法及び企業再建整備法上の公の機関であつて、本法は株式会社の公告と特別管理人のする公告とを区別しているからである。この関係は、破産管財人が破産者又は破産債権者の代理人ではなく、破産法上における公の機関であつて、株式会社の破産管財人のする公告に商法の規定が適用されず、破産法一一五条、一一六条又は三六六条等が適用されるのと同じである。特別管理人のする公告も、株式会社の公告ではないから、商法によらず、本法及びその附属法令が適用されることは当然である。
さて、法一四条一項の公告は、特別管理人のする公告であつて、特別経理株式会社の公告ではない。そこで右に述べた理由から、規則九条は右特別管理人のする公告方法の細則を定めたのであつて、何も商法の規定と矛盾するところはない。
規則九条の定める店頭広告が、商法の定める公告方法に比べて、利害関係人に公告事項を周知徹底させるという点において、劣るものがあることは、被告も認める。しかし本法も店頭公告のみで満足しているのではなく、次のような配慮をしているのである。即ち、整備計画認可申請書が提出されたときは、日本銀行は、その旨を主務大臣の指定する日刊新聞紙(日本経済新聞)に告示しなければならないとし(規則九条の二の一項)、更に規則九条一項の公告は、右日本銀行の公告の日において効力を生ずるものとした(規則九条の二の三項)。従つて、利害関係人は、右日刊新聞紙によつて整備計画認可申請のあつたことを知り得るのであり、次に特別経理株式会社の店頭において整備計画の内容をみて、計画に対する異議申出の手続をとることができるのであつて、利害関係人が異議を申出る機会を事実上奪う結果となるとは、必ずしもいえない。規則九条が公告方法として店頭公告をとつた理由は、本法制定当時、多数の整備計画の認可申請が一せいになされることが予想されたので、法六条一項一〇号に掲げる事項をすべて官報又は時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に公告することを要求すると、著るしく公告が遅延し、急速を要する企業再建整備の実施が停滞するに至ることを恐れたからにほかならない。これをもし、原告主張のような商法の定める公告方法によるべきものとしたら、僅か六カ月余りの間にあつた数千件の認可申請の公告を、官報又は日刊新聞ではとうてい処理することができず、非常な混乱を惹き起したことであろう。
また法一四条一項が公告事項として規定している法六条一項一〇号の事項中、「法第三十四条の四第一項の規定により留保する積立金の額」に相当するものが、規則九条の公告事項として定めている規則三条一項各号中に含まれていないことも、原告のいうとおりである。しかしこれは立法の過誤によるものであつて、このことから、原告のいうように、法一四条一項の公告と規則九条の公告とが全く異るものであるとみることはできない。右の公告事項が一部欠けた事情を明らかにするために、次に関係規定の改正経過を説明する。
法並びに規則の各原規定(昭和二一年一〇月一九日法律第四〇号、同年一〇月二九日商工、大蔵、司法、農林、運輸、厚生省令第一号)にあつては、規則九条が公告事項としている規則三条一項の記載事項の中に、法一四条一項が公告事項としている法六条一項一〇号に掲げられた事項が全部包含されていた。ところが昭和二十二年十二月十一日法律第一六三号による改正により、法三四条の四が新設されたときに、法と規則との間に前記のようなくいちがいができた。すなわち、所謂退職積立金は、それまで原則として特別損失額算定の際利益金として総損金から控除されていたが、法三四条の四は、特別経理株式会社が「当該会社の従業員であつた者に対して当該会社又は第二会社が退職金を支給するため留保を必要とする金額」を定めることを認め、(イ)右決定は整備計画によつてなすべきこと(同条一項)、(ロ)右金額は特別損失額算定の際利益金として総損金から控除するを要しない旨(同条二項)を規定した。そこでこれに伴い、(イ)整備計画において定むべき特別損失額の算定に関する事項を規定した法六条一項一〇号に「第三四条の四第一項の規定により留保する積立金の額」を加え(昭和二十二年法律第一六三号)、(ロ)規則二条二号ロ(一)但書に「法第三十四条の四第一項の規定により定めた金額」を加えて、積立金中利益金として合計すべき金額から右金額を除く旨規定した(昭和二十二年十二月二十日大蔵、司法、厚生、農林、商工、運輸省令第一一号)。この際規則九条による公告事項に右金額を加えるべき旨の改正をなすべきであつたのに、これを失念し放置したため、前記のような結果になつたのである。
されば昭和二十二年法律第一六三号による法六条一項一〇号の改正後に、規則九条によつてなされた公告は、法の定める公告事項を一部欠いていて、違法たるを免れないけれども、右公告を経てなされた整備計画認可処分を当然無効ならしめるほど重大な瑕疵あるものではない。すなわち、特別経理株式会社の特別管理人は整備計画の認可を申請したときは、右公告をするとともに、整備計画及び関係書類を当該会社の本店及び支店に備えておき、利害関係人の閲覧に供しなければならない(法一四条一項後段)のであるから、公法事項の一部を欠くにせよ、規則九条に基く公告がなされた以上、利害関係人はいつでも整備計画を閲覧し、その欠けた公告事項を知りうべき状態にある。そして法一四条一項前段による公告は、整備計画の認可処分をするために経由すべき手続の一つであるが、規則九条によつて公告がなされた以上、認可処分の手続も瑕疵を帯びるとはいつても、全く公告をしなかつた場合と異り、右に述べたように利害関係人の権利又は利益を担保する道が閉されているわけではないのである。従つてその瑕疵は認可処分を当然無効ならしめるほど重大なものではないというべきである。
以上のとおり、規則九条は、法一四条一項の命ずる公告について、公告事項及び公告方法の細則を定めたものにほかならず、特別経理株式会社の特別管理人は、整備計画の認可を申請した場合、規則九条の定めるところに従つて店頭公告をし、且つ法一四条一項後段の命ずる書類を当該会社の本店及び支店に備えおいて、利害関係人の閲覧に供すればよいのである。ところで本件の場合、第一会社の特別管理人塚田辰治郎等は、本件整備計画の認可申請後、規則九条の定めるところに従つて第一会社の店頭にその公告をし、且つ法一四条一項後段の命ずる書類をその本店(支店はない)に備えて、利害関係人の閲覧しうる状態においたのである。されば右店頭公告に、規則九条の不備による瑕疵があるにせよ、そのために本件認可処分が当然無効となるということはできず、原告の主張は理由がない。
かように述べた(立証省略)。
三、理 由
(一) 本訴の前提たる事実及びその対象
原告主張の(一)の事実は当事者間に争いがない。そして原告が本訴で無効確定を求めているのは、右の昭和二十三年八月三十一日運輸、大蔵両大臣がした本件企業再建整備計画認可処分である。
(二) 争点
本訴の争点は、右認可処分の効力の前提として、本件第一会社の特別管理人塚田辰治郎外三名が本件整備計画の認可を申請したとき法一四条一項の命ずる公告を適法にしたか否かにある。そのためまず、規則九条は法一四条一項の公告の公告方法を定めたものか、という法律解釈が問題となり、次に、右公告は規則九条の定める店頭公告によるべきものとした場合に、店頭公告が適法になされたかを検討しなければならない。
(三) 法一四条一項の公告の公告方法を規則で定めることができるか。
法一四条一項は、特別経理株式会社の特別管理人が整備計画の認可を申請したときは、遅滞なく法六条一項一〇号に掲げる事項を公告すべき旨を命じているが、その公告方法については何も特別の定めをしていない。そして法五五条に「この法律に定めるものの外、登記その他企業の再建整備に関し必要な事項は、命令の定めるところよる。」とあるほか、本法には、右の公告方法について個々の具体的規定が何もない。原告は、かような場合には、企業再建整備計画は当該会社の利害関係人の権利に重大な影響を与えるものであるから、厳格な公告方法をとるのが当然であるとして、本法に対し一般法の関係にある商法の規定に従い、会社の定款に定める方法で公告しなければならない、という。しかし法一四条一項の公告は、特別経理株式会社のする公告ではなく、その特別管理人のする公告であること、被告のいうとおりである。特別管理人は特別経理株式会社の業務執行について監督的地位にある独立の機関であつて、自らその会社の業務執行に当る権限をもつているのではない。このことは、会社経理応急措置法及び本法の規定を通読すれば、すぐわかることである。そして整備計画は、特別管理人が特別経理株式会社の業務執行とは独立に作成するものであつて、特別経理株式会社が作成するものではなく、会社はその認可があつてはじめて、その整備計画に従い遅滞なく整備を実行すべき業務を負うに至るのである。されば整備計画の認可を申請する者が特別管理人であり、従つてまたその公告をする者も会社ではなく特別管理人であることは、当然である。
ところで会社のする公告は、一般に、商法の定める方法でするのが原則であり、特別法でその方法を排除するためには、具体的に特別の規定をおくことが必要である。しかし特別管理人が特別経理株式会社の業務執行から独立して行う本法の公告方法について、商法に特別の定めがないことはいうまでもなく、当然に商法の定める会社の公告方法によるべしとする法の根拠もないのであるから、その公告方法は、本法またはその附属法規で定めることが必要なのである。
整備計画が特別経理株式会社の株主、債権者等の利害関係人の権利に重大な影響を及ぼすものであり、そのため法一四条が、広くこれらの者に整備計画の骨子を知らせることを目的として、所定事項の公告を命じ、また利害関係人に異議申出の機会を与えてその保護をはかつていることは、原告のいうとおりである。しかし法一四条一項の公告がかように重要な意味をもつているからといつて、その公告方法について、当然に会社に関して商法の定める公告方法に従わなければならないという法の根拠はないことさきに述べたとおりであるから、前記の目的を達するため合理的な方法である限り、命令に委任してその方法を定めることは、少しも差支えがないといわなければならない。
原告は、法一八条の場合のように、命令に委任する旨の個別的な規定がない以上、法一四条一項の公告方法を命令を以て定めることは許されないという。
立法について国会中心主義をとつている憲法の基本構造からみて国会の立法権を侵すような命令への無制限な一般的委任が許されないことはもちろんであり、委任命令を以て法律そのものを廃止変更するような規定を設けることや、法律で認められた国民の権利を不当に制限するような規定を命令に設けることが許されないことは、いうまでもない。しかし法律の補充的規定又はその特例的ないし解釈的規定を、法の委任にもとづいて、命令で定めることは、少しも差支えがないと解するのが相当である。(右の限度を逸脱しない限り、委任事項の内容如何によつて、直ちに原告のいうように違憲の問題を生ずることはないのである。)
ここに、本法五五条は、さきに述べたとおり、「登記その他企業の再建整備に関し必要な事項」を命令の定めるところに委任している。ところで特別管理人のなすべき法一四条一項の公告の方法について、本法は特に規定していないのである。かような場合に、「企業の再建整備に関し必要な事項」たるその公告方法を、同条の補充的規定として、本法五五条にもとづいて、命令で定めることは、その方法が、同条が公告を命じた主旨を逸脱せず、合理的なものと認められる限り、許さるべきことである。本法を通読してみると、特別経理株式会社が公告をすべき場合には、多くその公告方法を個別的に命令の定めるところに委任している。それは、さきに述べたとおり会社の公告は原則として商法の定めるところによるべきであるから、その特例的規定を設けるに当り、個々の場合に委任の主旨を明らかにしようとしたものであろう。(しかし以上述べた趣旨からいえば、会社のする公告の場合でも、本法五五条がある限り、本法に個別的な委任規定がなければならないとまでいうことはできず、右五五条に基いて会社のすべき公告の方法を規則で定めることも差支えないといえよう。例えば、本法三五条は単に特別経理株式会社に公告をすべきことを命じ、その方法を命令の定めるところに委任していないが、規則一九条はその公告方法を定めている。これは本法五五条を根拠にしたものとみるべきである。)これに反し、特別管理人のなすべき公告に原則たるべき定めはないのであるから、命令に補充的規定をおくについて、特に原則規定を排除する意味で、個別的に命令への委任規定を設ける必要はない、というべきである。
本法のなかで、特別管理人が公告をなすべき場合は、法一四条一項と法一八条の場合だけである。そして法一八条がその公告について命令の定めるところに委任していることは、原告のいうとおりである。しかしさきに説明したところで明らかなように、法一八条の命令への委任規定は必らずしも必要ではなく、その公告に関する細目については、法五五条を根拠として、当然に命令を以て定めることができる、といわなければならない。(ひつきよう、本法及び規則を通じ、少くとも公告の点に関して、極めて不統一、不手際な立法であつたというほかない。)
(四) 規則九条は法一四条一項の公告方法を定めたものか。
規則九条(昭和二十二年十二月二十日大蔵、司法、厚生、農林、商工、運輸省令第一一号による改正後、昭和二十三年七月二十九日法務庁、大蔵、厚生、農林、商工、運輸省令第一号による改正前のもの)は、特別経理株式会社の特別管理人が整備計画の認可を申請したときは、法一四条一項の規定により、遅滞なく規則三条一項に記載した事項を、当該会社の本店及び支店の店頭に掲示する方法によつて公告すべき旨を定めている。即ち同条は、法一四条一項の公告方法として、店頭公告の方法をとつたわけである。そこで右の店頭公告が、法一四条一項の公告の方法として合理的なものといえるかを十分検討してみなければならない。店頭公告が公告方法として、法一四条一項が公告を命じた目的を失わせるようなものであれば、規則九条は、法一四条一項の補充的規定としての主旨を逸脱することになるからである。
店頭公告が、公告方法として、利害関係人に広く公告事項を知らせるという目的からいえば、官報、日刊新聞紙等に掲載することに比べて、劣る方法であることはいうまでもない。しかし同時に、規則九条の二(昭和二十二年十二月二十日大蔵、司法、厚生、農林、商工、運輸省令第一一号によつてこの規定が加えられた)は、整備計画認可申請書の提出があつたときは、日本銀行は、主務大臣の指定する日刊新聞紙に掲載することによつてその旨告示すべきものとし、かつ規則九条の店頭公告は右告示の日に効力を生ずるものとしている。また一方、法一四条一項は、特別管理人が整備計画の認可を申請したときは、法六条一項一〇号に掲げる事項を公告するとともに、当該整備計画を記載した書類その他の関係書類を当該特別経理株式会社の本店及び支店に備え置き、利害関係人の閲覧に供すべき旨を定めている。してみると、利害関係人は、右日刊新聞紙上の日本銀行の告示によつて整備計画の認可申請があつたことを知ることができ、次いで当該特別経理株式会社の店頭において公告事項とともにその整備計画の内容を知ることができるのである。法及び規則は、店頭公告の不備を補うためにかような考慮を払つているのである。
しかし他方、利害関係人が整備計画の内容を直ちに知ることができず、そのため当該会社の本支店の店頭に行かなければならないことは、極めて不便であり、その保護に不十分であつたともいえよう。そこで規則九条が店頭公告の方法をとるに至つた事情を、更に検討してみなければならない。
本法の施行により、特別経理株式会社の特別管理人は、極めて短期間(原則として、規則四条一項の定める四十五日の書類提出期間満了後五カ月以内)に整備計画の認可申請書を提出しなければならなかつたのであり、従つて整備計画の認可申請が短期間内に数多くなされるであろうということは、容易に推測できたことである。この大量の申請を、すべて官報又は日刊新聞紙に掲載して公告すべきものとすると、官報又は日刊新聞紙が迅速にこれを処理することができず、公告が遅延し、かくては特別経理株式会社の速やかな再建整備を行おうとする本法の目的が達せられなくなることは明らかなことである。また本法施行当時、戦後の物資不足の状態がなお続いていて、官報の配布が遅れ勝ちであつたことは周知のことである。されば企業再建整備を速やかに完了し、産業の健全な回復振興を図るという本法の目的からみて、前記のような欠陥があるにもかかわらず、規則九条が店頭公告の方法をとつたことはやむを得ない措置であり、利害関係人の保護も、前記のような考慮の下に、これを以て満足すべきであつたといわなければならない。
してみると、規則九条は、法一四条一項の公告方法として店頭公告の方法を定めたものであつて、これについては十分な理由があり、これを以て利害関係人の異議申出の権利を不当に制限したものということはできず、法一四条の補充的規定として合理的なものであるとしなければならない。
ところで、法一四条一項が公告事項として定めている法六条一項一〇号中の「法第三十四条の四第一項の規定により留保する積立金の額」に相当するものが、規則九条が公告事項としている規則三条一項各号中に含まれていないことは、原告のいうとおりである。しかし法及び規則改正の経過をみると、右の事項が規則三条一項各号の中に欠けるに至つた事情は、被告主張のとおりであるから、これをとり上げて、法一四条一項の公告と規則九条の公告とは目的性質が異るということの根拠とすることはできない。むしろ法六条一項一〇号は概括的に主要項目を挙げているに対し、規則三条一項各号は、更に補充的に、詳細な項目を定めたから、規則九条はこの後者を以て公告事項としたとみるのが相当である。
ひつきよう、規則九条は、法一四条一項の命ずる公告について、その公告事項を補充整理し、かつその公告方法を定めたものと解するのが相当である。
(五) 公告事項の不備は公告の効力を動かすか。
規則九条が公告事項としている規則三条一項各号中に前記の一事項が欠けていることは、規則九条の不備というべきである。しかし規則九条の店頭公告に加えて、法及び規則は、店頭公告の不備を補い利害関係人保護の実効を期するため前記のような考慮を払つていて、利害関係人が特別経理株式会社の店頭において右の欠けた事項を知ることができること、被告のいうとおりであるから、店頭公告自体で右の事項を知ることができないとしても、そのために利害関係人の異議申出の権利が実際上制限されることはないのである。されば規則九条に従つてなされた店頭公告は、前記公告事項を欠いている点で瑕疵があるにせよ、その瑕疵は、公告を無効ならしめる種類程度のものではない、といわなければならない。
(六) 本件において適法な店頭公告があつたか。
証人塚田辰治郎の証言によると、次の事実を認めることができる。
本件第一会社の特別管理人であつた塚田辰治郎外三名の者は、本件整備計画の認可申請をすると同時に、規則九条の定めるところに従つて店頭公告をした。即ち昭和二十三年三月末日から同年五月初頃までの間、規則三条一項各号の事項をタイプした書面を、第一会社の玄関入口の扉に貼りつけて公告した。第一会社の本店(支店はない)の登記簿上の住所は、東京都千代田区丸の内一丁目六番地の東京海上ビル内にあつたが、当時同ビルは進駐軍に接収されていて、第一会社の営業所は深川にあり、更に前記公告期間中に営業所を大森に移転したので、右両営業所の店頭に前記書面を提示して公告したのであつた。そして法一四条一項の定める整備計画書及び関係書類を右各店頭に備えつけて、何時でも利害関係人が閲覧できるようにしておいた。「法第三十四条の四第一項の規定により留保する積立金の額」については、右店頭公告書に載せなかつたが、整備計画書の中に記載してあつた。
かように認めることができる。本件第一会社の特別管理人は、本件整備計画の認可申請をしたについて、法一四条一項の命ずるところに従い、規則九条の定めるとおりに店頭公告をしたものというべく、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
そして右認定の店頭公告中に、法一四条一項の公告事項中「法第三十四条の四第一項の規定により留保すべき積立金の額」が欠けていても、右公告を以て無効とすべきいわれのないことは、さきに説明したところから明らかであろう。してみると、本件整備計画の認可申請については、法一四条一項の命ずる公告があり、かつこれを無効ならしめるほどの瑕疵はなかつたというべきである。
(七) 結論
本件整備計画の認可申請をした際、特別管理人がした公告の無効なることを前提として、本件認可処分の無効確定を求める原告の請求は、結局理由がないことに帰する。よつてこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟特例法一条民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 新村義広 入山実 石沢健)